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ちょっといい話
2009年01月 の記事
2009年01月01日

モジリアニ

 無限の繁栄を思わせたアメリカ経済が、まるでブラックホールにでも吸い込まれていくかのように急激な衰退の始まりを思わせるニュースが24時間、リアルタイムに流れてきています。


 日本も時差の分だけずれるように、日本の繁栄の象徴でもある自動車産業、電機産業の大リストラが始まっています。


 ところでこういう時だからこそ、どうしてこうなったのかなと振り返ってみたりするのですが、日本の戦後民主主義はいつの間にか個人主義に変質してしまって、隣は何をする人ぞという”隣人愛”不毛地帯にでもなったような気がします。


 これほど時代が悪くなってきたからこそ、あらためて多少不自由なことがあっても”隣人を思う心”を発信し合ってはどうでしょうか、と戦後民主主義と共に育ってきた一人として反省を込めて、祈りを込めて発信してみたくなります。

 元日の朝、きりりと髪をととのえ、シフトより1時間早めに出てきて、良いスタートを切ろうとお店にやってきた女性チーフのY子さん。


 ユニフォームに着替え、鏡の前に立って、汚れがないか、目立つようなしわはないか、くるりと回って全身をチェック。最後に、好きなフランスの画家の名前「モジリアニ」と言って、特に最後の「ニ」に力を入れて発音し彼女独特の笑顔法を実行する。


 モジリアニ夫人、ジャンヌの肖像画は24枚もあり、彼女がいかに愛されていたかを物語っているのですが、89年前の1月24日、モジリアニが36歳で病没後、21歳の彼女も2日後に彼のあとを追って、若くしてこの世を去りました。火のような恋をしたまま…。


 モジリアニの一生はのちのちまで伝説となって語り継がれていますが、Y子さんはモジリアニの展覧会があれば、できるだけ見に行くようにしています。本物の絵はやはり、伝わってくるものが違うからです。


 笑顔を浮かべたY子さんは、次にフロアーに出ようとシューズをチェック。シューズを手にとって、フレッシュな気持ちできれいに磨く。


 そしてフロアーに出ようと、靴を履きおえたところで、店長が出勤してきました。彼女は、それこそまた心の中で「モジリアニ」と言って笑みを浮かべ「店長、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」と挨拶をした。


 店長もそれに応えて「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」と二人、共にお辞儀を交わして、店長は「早かったんだね」と気づかいの言葉をかける。


「はい。元旦ですから。気持ちも新たにスタートしようと思いまして。店長のほうこそ、昨日は遅くまでおせち料理のお届け確認でお疲れでしょうに」と彼女もまた気づかいの言葉を返した。


「皆さん、早めに出勤してくださってありがたく思っています。新年スタートの朝礼を始めましょう。皆さんに声を掛けてください」


 すでにキッチンとフロアーで仕事を始めていた朝出勤の社員、パートさんが店長の前に整列しました。


「新年明けましておめでとうございます」と店長。それに応え、「新年明けましておめでとうございます」とさわやかに挨拶を返す皆さん。


「昨日までのおせち料理販売は皆様のおかげで店舗目標も完売できましたし、ご注文のお客様にすべて無事にお届けすることができました。あらためてお礼を申し上げます。ありがとうございました」と店長はスパッと切れの良いお辞儀をする。


「さて今日から2009年、平成21年の始まりです。始めよければ終わりよし、ということわざもあります。今日、最初のお客様に感謝を込めてお迎えし、良い料理をつくり、良いサービスで心から満足していただくようにしましょう。そしてその気持ちをずっと持ちつづけて一人一人のお客様に喜んでいただきましょう。新年のおすすめメニューは、ずわいがにと、本まぐろメニューです。また三が日はお宮参りで晴れ着のお客様もご来店されます。料理提供時、下げ膳時、気配りをして、あわてず、確実なおもてなしをお願い致します」と、きちっと本日のポイントを話す。


「最後に、今日もチーフ、なんて言うんだっけ?」
「えっ?」Y子さんは一瞬ピンときていない。
「ほら、笑顔が浮かんでくる魔法の言葉」
「モジリアニ、ですか?」
「そう、それ。幸せなほほえみをお客様に楽しんでいただきましょう。以上、よろしくお願い致します。モジリアニ!」


皆さん、ニッとほほえんで、それぞれのポジションに向かいました。

2009年01月08日
2009年01月11日

誓い

 北海道から妻子を連れて関東に転勤してきたチーフ。勤務歴は10年を越えている。

 元日、早番で勤務を終え、社宅に帰って「只今」とドアを開けると小さな彼の娘が飛んで来た。


「パパ、お帰り」と飛びつく。「ああ只今」と抱き上げて、ほほずりをする。「ママ、これから神社にお参りに行こう」と彼。


「ほんとに?」と彼の妻。目を丸くしている。


「ああ行こう。風邪ひかさないようにたくさん着せてくれ。関東の風は冷たいからな」と彼はまた、娘をぎゅっと抱き締めた。


「どうしたのパパ?」と少し怪訝(けげん)に思いつつも、家族そろって出掛けることに彼の妻もうれしそうな目になっている。


「うん。ママ、俺、店長になる」


「えっ、パパ、店長に?」


「なる。お前達を関東に連れてきて、いつまでも万年チーフというわけにはいかないだろう。経済は厳しいが会社は出店に力を入れている。チャンスを自分でつくるために、俺は店長になることを誓うことにした。家族そろって、神様の前で誓うことにしたんだ。だから行こう。神社に」


「パパ、店長さんになるの?」と抱かれたままの小さな娘が聞く。


「なるとも。絶対になってやる。俺も30歳だ。札幌の親にも喜んでもらいたい。北海道から何人も転勤して来て何人も店長になっている。俺になれない理由はない。一生懸命、目の色変えて仕事をやる。お前達も協力してくれ。キッチンとフロアーの仕事ができるだけでなく、店長になるための勉強も必要だ。勤務時間の前や、勤務後に店長からいろいろと教えてもらったり、自分でも足りない部分をおぎなう時間が必要だ」


「わかったよ、パパ。協力するよねえ。すごいね。パパ」


 抱かれたままの娘も「うん。キョウリョク、キョウリョク」とはしゃぐようにからだを動かす。「おいおい落ちるぞ」と彼。「さあ行くぞ」と、妻と娘に外出の用意をさせた。


 それから、1週間が経った1月8日。新メニューの「ひらめ」のメニュー開始の朝。お店にシフトより早めに出て、キッチンでの「ひらめ」の仕込みを一緒におこない、「ひらめ」のさばき方を確認する。


 特に「ひらめ」の「えんがわ」をいかに上手に切り取るか、ということに神経を使い、調理担当のパートさんとも確認し合った。


 キッチンで仕込みが終わったら、フロアーの朝礼に出て、毎月の店舗業績表彰でトップクラスをつづける店長からの言葉を聞く。


「おはようございます。本日から新メニューが始まります。ひらめメニューと、真だらメニューです。真だらメニューは昨年もおこなっているので特に問題はないと思いますが、ひらめメニューは今回が初めてです。


 とんでんの強みは鮮魚です。しかも、ひらめは高級魚です。とんでんのお客様の90%は常連様です。その常連様に喜んでいただける価格で提供します。経済は厳しいですが、その中でお客様はお店をしっかり選択してご来店されます。キッチンもフロアーも連係プレーで良い商品を提供してください」


 チーフ、何かあるか? と店長からうながされ、彼は「はい」と言って話す。
「おはようございます。今、店長からお話がありましたように、ひらめの〃えんがわ〃と、あら汁は限定メニューとなりますので、キッチンはこまめにフロアーに情報を流してください。


 ひらめの旬は冬です。今がひらめの一番おいしい時季です。高級白身魚で、うま味成分のイノシン酸やグルタミン酸が含まれているので淡白ですが、うま味が濃いのです。高タンパク、低カロリーでダイエットに良いメニューでもあります。また、えんがわにはコラーゲンが豊富に含まれています。以上、よろしくお願い致します」


 チーフは自分なりに調べたことを話した。


 店長は、ちらりとチーフを見た。「やる気だな」とチーフが聞こえるか聞こえない程度の声をもらしたあと、「チーフが話したことも参考にしてお客様にしっかり商品案内をしてください。それでは朝礼を終わります」と店長はきれいな45度の会釈をした。


 チーフもそれを見て、切れのある45度の会釈で返した。頭を下げながら、一つ一つしっかりと見習わなくては、と誓いを新たにした。

2009年01月16日
とんでん