節分を過ぎると、日よりも良くなってきた。お日様のやさしい日々が続くようになった。

「すみません、今日(きょう)は。急に団体さんが入って、ご協力、ありがとうございました。お昼ご飯も食べそこないましたね。申し訳ない」と、店長はキッチンのパートさんに頭を下げた。

ランチピークの終わった午後2時に入ってきた12名の団体さんの対応に一気に追われることになり、勤務が午後2時までのキッチンのパートさんに三拝九拝して延長勤務をお願いしたら、都合のつかない方が多く、お鮨を担当しているパートさんだけが残ってくれた。

 団体のお客様は笑い声が絶えず、会社の小旅行の途中のようで、どなたかが話す度に、どっと笑い声が上がった。

 注文は皆様同じで、お鮨、天ぷら、そば、茶わんむしがセットになった”さざんか”であったが、「できるだけ急いでお願いしたい」ということであった。店長もお席にご案内したあとキッチンに入り、天ぷらの盛り付けなどを助けた。

 お鮨を担当したのは残ってくれたパートさんで、早い、きれい、うまいの3拍子がそろった、ランチピークに打ってつけの方でしたから、お会計の際にはお客様から「急がせて悪かったね。本当においしかったよ」「今度は家族を連れてきたいね」「お鮨、最高!」「天ぷらもね!」と、いろいろとおほめの言葉をいただきました。

 お客様がお帰りになったあと、事務所には協力してくれたパートさんと店長だけだったので、「本当に助かりました。これ、口に合うかどうかわかりませんが、うちのかみさんが、この間のおみかんのお返しだって、手作りのクッキーなんです」と、小さな手付きの紙袋を差し出した。

「そんな、店長さん」と言って彼女はとても恐縮している表情をした。

「おいしかったですよ。息子さんがつくった、みかん。ちゃんとお母さんにお返ししているじゃありませんか」

 彼女の息子さんは有名私立大学を卒業して大手銀行に勤めていたが、自分には向かない、と退職し、全国を放浪の末、今は和歌山のみかん農園に雇われている、ということは聞いていた。

「本当においしかったですか。肥料にこだわった有機栽培で日本一うまいみかんとか、私にはすっぱいばかりで…」と涙ぐんでいた。

「大丈夫。男はこれだ、と思ったらまっしぐらですからね」

「店長さん、聞いてください。昨日、その農園のお嬢さんという方から手紙が来て、実は息子と大学で一緒だった、というのです。心配しないように、と書いてありました」

「そう。じゃあ、今度、お母さんに会いに来る時は、そのお嬢さんと一緒かもしれませんね」と、店長は、きっとサプライズは起きると思い始めた。

「そんな店長さん…」彼女は手を振って、ありえないという顔をした。 すーっと流れた涙を手の甲でぬぐいながら笑いがこぼれた。

「いや。世の中わからないものです。人間、おさまるところにおさまるものです。息子さんが帰ってきたら、ぜひ、うちの店で、お母さんの腕を見せてやってください。お母さんの腕も日本一。私が保証します」

(世界の中心に愛がある、ということを信じている孤独な編集長より)