まだ雪の残る千歳空港を飛び立ち、羽田空港に着陸した飛行機の窓から見える”東京”はまるで南国のようにも思えた。東京は高校の修学旅行以来のことだな、と赴任地の関東店舗に向かう彼はいくぶん不安でもあった。

飛行機が到着口につけられ静止すると、千歳空港から乗り込んで来た、かおるが、しがみつくように腕をからませてきた。かおるは自分の人生を俺に賭けてきたんだ、とあらためて思い、彼はかおるの目を見て、任せておけって、という目で応えた。かおるも、それがわかって彼の目を見てうなずいてみせた。  荷棚から、かおるのスーツケースと自分のショルダーバッグを降ろして

出口へ向かう列に並ぶと、この飛行機にはこんなにもおおぜいの人が乗っていたんだ、と驚く自分がいた。25年間、それこそ修学旅行以外に北海道を出たことがなかった自分が頼りなげで小さくも思えたほどだ。  旅行客も多かったが、いかにもビジネスマンというスーツ姿の男たち、そしてパンツスーツ姿のきりっとしまった顔立ちの女性たちにも圧倒されそうな感じを持った。この中に自分もいる、と思った彼は、決して気おくれすることなく、逆に、よしやるぞ、という静かなファイトがわき上がってくるようにも感じた。

 到着ロビーに出た彼は、まずやらなければならないことがあると思った。 午前11時を回っていて、教えられていた赴任店舗の店長の携帯電話に掛けてみた。

 3度目の呼び出し音で、店長の声が聞こえた。彼は店長に「おはようございます」と明るい挨拶をして名乗り、「店長、報告があります」と伝えた。

「ぼく自身も信じられないことが起きたと思っていますが、結婚相手が千歳空港から一緒の飛行機に乗ってきたのです」

「何?」と店長も一瞬、事態がのみこめないというふうな声を出したがすぐに「わかった。心配するな。部屋のことはすぐに人事部に掛け合う。ちょうど既婚者用の部屋がひとつ空いている」と答えてくれた。

「いいのでしょうか。そこまでは考えていなかったのです。独身者用の部屋ですが、しばらく彼女と一緒にいても良いでしょうか、という許可をいただきたかったのですが…」

「何とかする。なんにしても良かったじゃないか。できるかぎりのことはする。地区マネジャーにも報告しておくし、力にもなってもらうから。そうか。それは良かった。おめでとう! それより店まで大丈夫か?」

「ありがとうございます。行けなきゃ格好悪いですから」

「そうだな。新郎君、頑張って! 待ってるよ」と店長のあたたかい声にほっとするように彼は電話を切った。

 店長は同じ北海道の出身と聞いていた。

「かおる、行くぞ」と彼は言い、モノレールの切符売場を目指した。

(世界の中心に愛がある、ということを信じている孤独な編集長より)