ハナミズキの清楚な花びらが散り始める、ゴールデンウィーク前の金曜日の夕方、セーラー服姿の女子高校生が学校の鞄を片手に、ウエーティングルームに立っていた。襟元の赤いリボンは赤いハナミズキの花を思わせた。

「いらっしゃませ」と、チーフがお迎えすると、もじもじしているが、目はまっすぐ何かを訴えていて、「何か?」とあらためて聞いてみる。 「あのう、高校生のアルバイトは募集していませんか」と言う。

 そうなのか…とチーフは胸の中で思い、ゴールデンウィークを前に人手がほしいところだったので、「募集しています」と、笑顔で彼女に答えた。彼女は緊張していたのか、少し震え声で、「履歴書も持ってきています」と言う。

 頑張って一所懸命、前に向かってきているんだ…とチーフは感じ、「わかりました。少し待っていただけますか」と安心させるようにほほえんで、奥のほうの静かな席に案内した。

 店長は、昨日、今日と休みにしていた。奥さんと生まれて6ヵ月の女の子をゴールデンウィークが終わるまで奥さんの実家に帰すことにして昨日、茅ヶ崎まで車で送って行った。

 チーフは事務所から、店長の携帯電話に連絡を入れ、飛び込みで女子高生の面接が入ったことの相談をした。

 電話に出た店長からは「面接して、良い子だったら、また連絡を入れてくれ。彼女も待っているだろうし、明日は土曜日で、来れるのなら明日からでも来てもらえるとありがたい」という返事をもらった。

 チーフは女子高校生を待たせていた席に戻り、すぐに面接を始めた。履歴書を見ると、地元の女子高の2年生であった。「何をしたいの?」と聞くと、少し間があって、決心したように「フロアーの仕事です」と言う。はきはきしていない話し方なので、「フロアーの仕事? 大丈夫? お客様とお話ししなければならない仕事ですよ」とやさしく話すと、「はい。だから、やりたいんです。自分を変えたいんです」と彼女。

 彼女は涙を浮かべていた。肩を小刻みに揺らせ、絞り出すような声で「わたし、小さい時から、いじめられっ子なんです」と…。

「わかりましたよ。大丈夫ですよ」とチーフは言って、「私が今日からあなたの味方になりましょう。仕事も教えましょう。ただし、厳しいですよ。明日から来られますか」と彼女にほほ笑んだ。彼女もつられてほほえみ、うれしそうにぺこりと頭を下げ、「はい」と言って帰っていった。

 その彼女を育てたのは、「私ではなく、間違いなくお客様です。そして、いつも彼女に仕事を教え、励ましてきたパートさん、仲間のアルバイトさんです」とチーフは話してくれた。

 その彼女は短大に進学し、フロアーのアルバイトをつづけ、しっかりと一人前の大人にもなっていった。お客様に見られる仕事で、身だしなみも美しく、初めて会った時の幽霊のような暗い彼女の面影はもうどこにもない、ということも教えてくれた。

「その彼女はどうしているの?」と聞くと、「うちの会社に就職して、店長を目指しています。私より彼女の方が先に店長になるかもしれません。今は私のお嫁さんですがね」と照れて笑った。

 そして「自分で言うのもなんですが、私はチーフとして、ばりばり仕事ができて、そのことは、上司の店長、地区マネジャーも認めてくれているのです。しかし、何か一つ足りないんでしょうね。店長になるには」と言う。

「何だろうね」と彼に聞くと、彼はこんな話をしてくれた。

「ベテランの店長が言っていたのですが、店長になるには、胸の中にエンジェルがいなくちゃだめなんですって。お客様のハートをきゅんとさせる、世界最高のサービスの矢を射(い)ることができるエンジェルが胸の中にいることだと…」

(世界の中心に愛がある、ということを信じている孤独な編集長より)