「うら~わレッズ! チャチャッチャチャッチャ。うら~わレッズ! チャチャッチャチャッチャ」

 目の前の埼玉スタジアムから大歓声が聞こえてくる。5月23日のAFCチャンピオンズリーグ2007の浦和レッズVSシドニーFCの試合だ。

「これだよ、これ!」埼玉の大学を卒業して、とんでんに入社した彼。入社5年目のチーフだ。この熱気、忘れていた興奮が時を超えて戻ってきたように感じた。

 大学時代はバリバリの浦和レッズサポーターだった。試合のある日はほぼ毎回のように、埼玉スタジアム、駒場スタジアムに足を運び、ゴール裏で嗄れるほど大声を上げ、跳びはねていた。青春は浦和レッズの魂で真っ赤に染められた。

 とんでんに就職してからは土日は勤務なので、スタジアムからは自然と足が遠のいていった。おぼえることがいっぱいで、失敗すれば失敗するほど、仕事にのめりこんでいった。仕事の深さにはまりこんでいく自分がいた。

「福田正博の引退試合以来だから、4年ぶりか…。やっぱり、わくわくするなあ」来て良かったと思う彼。

 今日、久しぶりにスタジアムに来たのには訳があった。

 社内有志の呼びかけによる「プロ野球観戦ツアー」と「サッカー観戦ツアー」の誘いが社内ネットに告知されていたのが始まりだった。

「一人で行くより、サッカー好きが一緒になって観に行こう!」と書いてあり、「レッズの試合か、観に行きたいなあ」と思っていたところに、店長が「チーフはレッズファンだったよな。公休にして行ってこいよ。たまには発散してきなよ。そういうことも大事なんだよ」と後押しをしてくれた。

 通常のJリーグは、土日開催だが、この日は水曜日の平日で、アジアチャンピオンズリーグの浦和レッズVSシドニーFCという好カード。レッズは勝つか引き分けで、決勝トーナメントに進出という大事な試合だった。

 行きたい、と思い始めると、さざなみのように心は波立ち、その波は日が経つほどに大きくなっていくのだった。行きたいが行けるに変わっていく中で、彼はお店のなかまにもなぜかやさしくなっていくように感じた。

 店長が「こういうことも大事なんだ」と言っていた意味が、何となくわかってくるような気がした。

 試合当日、というか、前夜から、とめようのない興奮が体の中からふつふつと湧きあがってくるのであった。埼玉スタジアムに入る前に、オーストラリアのTVクルーの取材を受けるという”おまけ”までついて、ますます非日常的な空間へといざなわれ、興奮のボルテージはいやがうえにも盛り上がっていった。

 スタンドには、社内参加の総勢48名のうち、すでに半数以上が集まってきていた。

 家族4人でやってきた店長、小学校3年生の息子と今日がサッカー初観戦という本部のマネジャー、昨年まで同じ地区にいた後輩社員の姿もあった。ご主人や息子さんと来たパートさんもいた。みんな赤のユニフォームやTシャツに身を包み、会場の雰囲気に飲まれまいと気合が入っていた。

 試合が始まるころには、社内研修を終えて駆けつけてきた新入社員6名も合流した。

 みんなと一体になって、声を張り上げ応援した。「うら~わレッズ!チャチャッチャチャッチャ」周りのレッズサポーターの雄叫びに呼応し高まる興奮と共に心から試合観戦を楽しめた。レッズの色は、とんでんの社章のバッジの色と同じだ、とチーフは思った。

 試合でレッズは勝てなかったが、引き分けで決勝トーナメントに進めることになった。終了直後のスタジアムは大きくうねり、盛り上がりの物凄さにも酔うほどであった。

 そして試合が終わり、冷めやらぬ興奮のなか「今度は準々決勝を一緒に観にきましょう!」と誰彼となく声を掛け合った。

 階段を降りながら、チーフは思った。

 …観に来て本当に良かった、サッカー観戦なかまという新しいなかまもできた。明日、店に行ったら、みんなに今日の楽しさを報告しよう。そして一人でも二人でも同じ店の観戦なかまを増やしていこう。人生は楽しむことも大事なんだ。気持ち良く送り出してくれた店長にもお礼を言おう。シフトに協力してくれたパートさん、アルバイトさんにもお礼を言おう…。スタジアムから出て、この日の観戦ツアーに参加したみんなが言い合った。別れを惜しむように「また会いましょう!」と。