雨が降ってきた。歩道に植えられているアジサイが雨に濡れて、花の色がいっそうきれいだ。

 平日の間もなくお昼というところで、フロアー係のパートさんが、傘を差した小さな二人が、お店の玄関前に立っていることに気づいた。

 お母さんかお父さんが先にきているのかな、とフロアー全体に目を走らせながら玄関までいき、扉を開けて、聞いてみることにした。

 5~6歳のお兄ちゃんが2~3歳の妹の手を握っている。

「あのう」とお兄ちゃんが眉を八の字にして言う。

「はい。どうしました」とパートさんはやさしく言って、腰をかがめて話を聞く。

「すみません。トイレを貸してくれませんか」と、せっぱ詰まったように、お兄ちゃんが言う。

 見ると、小さな妹がおなかをおさえている。 あっ、いけないと思いつつパートさんは「どうぞ。お使いください」とすぐに中に通すと、お兄ちゃんは、「すみません。傘、ここにおいときます」と言って、あとは店の中をよく知っているように、コンビニの袋を振り振り、妹の手を引いて小走りにトイレに向かっていった。

 二人の後ろ姿が、いそげ、いそげといっているように体が右に左にゆれ、パートさんは、ほほえましく二人の姿を追った。 そういえば、1週間ほど前にいらっしゃっていたご家族ではなかったかしら、と思い出していた。

 間もなくして、トイレから出て来た小さな二人は安心したおだやかな顔になっていた。 応対していたパートさんは、お兄ちゃん、偉いなあ、きちんとかわいい妹にトイレを使わせることができたんだ、と少し、うるうるしたほどだ。

 二人が玄関を出て行く前に、お兄ちゃんから、「ありがとうございました」としっかり頭を下げられたパートさん。もう完璧(かんぺき)に感心です。 「偉いわね。いつでも来てくださいね」と言って、さらに「気をつけておうちに帰ってね」と二人を送り出して上げた。

 しばし、二人の行方を見送っていると、小雨の中を歩く小さな二人の傘がアジサイの花のように揺れ、まるで、童話の世界にでも引き込まれていくようであった。

 入れ替わるようにして、サラリーマンのお客様が2~3人で、どんどんご来店された。「いらっしゃいませ」「いらっしゃいませ」フロアーは一気に活気づいていく。

 それから1時間半ほどして本部に、この兄妹のお母さんからお礼のメールが送られてきた。しばらく、本部ではこのファンタジーでプリティなストーリーの話題でもちきりとなり、誰の心もなごんだ。