6月21日午前9時、空は真っ青。真夏の天気模様だ。埼玉の秋ケ瀬公園ソフトボール場に、関東の8チームの参加選手と応援者の330名が南は神奈川、北は群馬から集合し第2回ソフトボール大会が開幕。

 試合開始に先立ち、仮設ステージにふだん超真面目の埼玉県内のM店長が立つ。ステージに上がりそこねたようにこけを入れた。その落差にみんな少し驚いて笑う。もう、みんな、本当は楽しさに爆発しそうなのだ。

「宣誓。私たちはこのソフトボール大会をとんでんの通年行事となるようルールを守り、営業3部のY次長の公平な審判に従い、営業2部のN次長の無言のサインに首を振り、営業1部のG次長のヤジ、オドシを恐れず、楽しく闘います。また、この大会の勢いを夏の繁忙期につなげ、暑い夏にしっかりと冷えたビールをお客様に提供して喜んでいただくことを美山加恋(みやまかれん)ちゃんに誓います!!」もう、どっと大受けでした。

 とんでんは7月からの毎週火曜、午後7時、テレビ東京『ココリコミリオン家族』のスポンサーの1社として3カ月間、CM契約(関東版)を結び、10歳の美山加恋さんを主役にしたテレビCMを製作、すでに7月の第1週目の放映があった。

昨年の第1回大会の優勝チームの監督は、このちょっといい話の第19話で紹介し”気合むき出し監督”だが、この春の定期人事異動で次長に昇進し、監督の上の顧問的な立場になり、何か今一つ乗り切れないようだ。

 しかし、見方によると、営業1部、2部、3部から2チームずつ参戦しており、部対抗の様相を呈していることは間違いのないことで、ベンチの最前列で腕組みをして座り、にらみをきかせていた。その顔には「勝たないとどうなるかわかっているんだろうな。気合だよ。き・あ・い!」と書かれているのは誰の目にも明らかだった。

 結果、彼のひきいる1チームは準決勝までいったものの3位・4位決定戦でも破れ4位で散った。彼の気合は無言のまま空回りに終わった…。

 だが、物語はこれで終わりではない。

優勝決定戦は、なんと営業2部チーム同士の戦いとなった。奇しくも、去年の優勝決定戦チームが半分ずつ入っており、戦っているチームにしては相手がどのくらい強いかを知っている。地区で言うと、東京・埼玉連合VS千葉連合の戦いのようであった。

先攻は東京・埼玉連合で、1回の表、手堅く1点を入れたが、裏で千葉連合に3点を入れられた。2回、東京・埼玉連合が1点を返したが、裏で再び千葉連合に3点を入れられ、6対2。3回、4回は、互いに0点で膠着(こうちゃく)状態。5回が最終回、敗色濃厚の東京・埼玉連合の1人目のバッター、東京の活きのいいW店長が鋭い打球で塁に出た。大盛り上がりの東京・埼玉連合だが、最終回ということもあって、次打者からはメモリアル代打に切り替えた。

監督のS地区マネジャーは、まず顧問のN次長にバッターをすすめたが、N次長は、どっちかのチームに加担するわけにはいかないでしょう、と眉を八の字にして手を顔の前で振って断った。それで、今度は同じ地区マネジャーのWヘッドコーチを代打として告げた。

 日に焼けた顔なので、彼がどれだけ青ざめていたかは誰にもわからない。だって、1、2球、空振りだったもの。徐々にあきらめムードが漂う中、打った。打ったんです。もつれる足でファーストにたどり着いたWマネジャー、勝ち誇ったようにベンチに腕を上げた。

それでもまだ、メモリアル代打は続けられた。「か~んとく」「か~んとく」の連呼にSマネジャーがバッターボックスに立った。Sマネジャー

の目は緊張でとがっていた。打った。捕られた。残念。進塁できず、くやしがる応援団。「ワンナウト。しまっていこう」と言ったのは、ベンチに戻ってきたSマネジャーだった。一方、千葉連合はこのワンナウトで勝ちを確信し始めていた。最終回を迎えた時よりも。

ところがここから怒涛の大逆転劇となった。打つわ打つわ7連打。バッターが一巡して最初に塁に出たW店長が打った時には8点が入っていた。

 この中には選手宣誓したM店長もいたし、昨年の優勝チームの立役者でこのちょっといい話26話に出てきた広島カープの”男・前田”の大ファンW店長のタイムリー2点打は、完璧に試合をひっくり返してしまった。

今回は1回戦で負けたが、昨年、優勝チームにいた女性店長と同じ店の女子社員の二人がネット裏で応援のタンバリンをたたいて大喜びだった。

最終回の表で試合は10対6になってしまった。千葉連合は当然、あきらめてはいない。再逆転を胸にバッターを送り出す。守る東京・埼玉連合はピッチャーに女子新入社員のS社員に託す。

 2人に打たれた。ノーアウト、2・3塁の大ピンチ。押せ押せの千葉連合。3人目のバッターの鋭い打球が飛んでいく。3塁線を抜けると誰もが思ったライナー。これを最終回の打線を切り開いたW店長が横っ跳びで捕球。3塁を飛び出していたランナーもアウトのダブルプレー。

 最後の一人の打球もショートを守る”男・前田”店長にがっちり捕られゆっくりとスローモーションのようにファーストに投げられゲームセット。 S監督も、”男・前田”店長も「連覇だ!」「連覇だ!」と叫んだ。それを見ていた、去年、優勝の「き・あ・いだ!」監督はニヤッと笑って球場をあとにした。