ひと雨ごとに緑が濃くなっています。ほんのひと月前、華やかに春を飾る花を咲かせ、花を散らした桜の木も、あっという間に、目にも濃い青葉で幹も枝も隠してしまっています。  その桜並木の下で、雨の好きな紫陽花(あじさい)の花のつぼみが大きくなって、今にも咲きそう。きっと梅雨入りを待っているのでしょう。

 アジサイの名前の由来は、花の色の藍(あい)が集まったものを意味する「集(あつ)」と「真藍(さあい)」の合成語が変化していったという説があります。

アジサイの花は、花びらのように見えるのが萼(がく)で、花はその中の小さな粒々。何か理由があってのものだろうから、アジサイに聞けるものなら、どうしてそうなの?と聞いてみたい気がする。でも、言われてみれば額紫陽花(がくあじさい)が、その説明にぴったり合う花でしょう。

 大卒新入社員のA君。キッチンに配属されて2カ月が過ぎた。勤務終了後に、先輩のチーフから包丁の研ぎ方を見てもらっている。  新入社員導入研修で、研修スタッフから教えられた「切れる包丁で調理をすることが基本」ということが強く頭に残っていて、研ぎ方をきちんとマスターしておきたかった。

 大学を出るまで、学生寮に入っていたこともあって、包丁を握ること自体、ほとんどなかった。 「家庭の包丁と違って、店の包丁はよく切れるから気を付けろ」とチーフから何度も言われていた。

よく水を吸った砥石を前に立つA君。 砥石に刃を寝かせ、押したり、戻したりする力加減がうまくつかめない。 刃を押すのはそう感じないが、刃を手前に戻すときに指を切るようで恐い感じがなかなか抜けない。

 先輩のチーフが研いでいるのを見ていると、シャッ、シャッと研ぐ音も心地よい。 「馴れ(なれ)だよ。毎日やっていれば、必ずこつはつかめる」とチーフ。 「はい。頑張ります」と彼は手を休め、チーフの顔を見ながら、ほほえんでいる。

「どうした?」とチーフは少し怪訝(けげん)な顔で聞いた。 「はい。チーフ、私が包丁研ぎを完璧にマスターできたら、その技術をまだ良くできない人達に教え、包丁の切れ味では全店一と言われるようにするのが私の目標です」と、口を真一文字にむすんだ。 「そうか。うれしいね。何でも目標を持ってやると確実に前進する。その目標に一緒に向かってみようじゃないか」と賛同したチーフ。

「はい!」若い彼の顔が磨かれた包丁の刃のように、ピカッと光った。