同じお店で、8年目の男性チーフ、2年目の女性社員が今年の4月からフロア勤務となり、年間でもっとも忙しいお盆営業を迎えた。 若い女性社員はフロア業務5ヵ月目ともなると、すっかり慣れて、行動も機敏。 これに対してチーフはゆったり動く。ピークタイムも動ずることなく、動きはバタバタしない。それでいて、きちんとサービスができている。 ピークタイムに、つい小走りになってしまう女性社員に、チーフはすれ違う一瞬「走らない」と耳打ちすると、女性社員は、きっとにらみ返したりするが、すぐに自分を落ち着けるようにして、小走りをやめる。  ピークがおさまり、二人は昼食休憩で、事務所で一緒になった。 「チーフはこの4月からフロアなんですよね。ずっとキッチンだったんですか」と聞く女性社員。 「うん。僕は性格がおとなしそうだろう。お客様との会話も苦手と思われる。キッチンにいても、余計なことを言わないから、仕事が合っているのかなと思われてキッチンが長かった。でも店長が代わって、思い切ってフロアの勉強もしたいんですと言ってみたら、店長、驚いたような顔をしたけど、そうだね、フロア、やってみるかと言ってくれたんだ」とチーフ。 「そうなんですか。私は早くフロアに出たいと思っていたので、フロアの人員に欠員ができて、私にチャンスが回ってきて、とってもうれしかったんです」と女性社員は、アボカド巻をほお張った。 「フロア、思っていたより大変だろう。僕は、接客サービスがしたくて入社したから、やっと望んだ仕事につけたんだけど、キッチンが長かった分だけ料理の説明は自信を持ってできる。これは僕の最強の強みになっているんだ」チーフは静かにほほえんで、お茶をすする。 「ところでチーフ、その胸ポケットに入っている、GMというメモ帳には何を書き込んでいるんですか」女性社員が聞いてみたかったことだ。 「これかい?」とチーフはポケットからメモ帳を取り出し、「ゲスト・メモ、GM、お客様の情報だよ。お名前、ご家族なのか、ご友人、職場仲間なのか、お好きなメニュー、よく来店される日時、曜日とか」 「すごいですね」アボカドの巻物を箸にはさんだまま、動きを止めて言う。 「好きな仕事だからさ。あわてず、ゆっくりさ」 「チーフ、びしびし、しごいてください。私も、この仕事、大好きなんです」女性社員は立ち上がって、深々とお辞儀をした。 「繁忙期が終わって、落ち着いたら、お墓参り行ってきなよ。こういうことって大事なんだよ。命がつながれて、今あることの感謝」 「はい。チーフに出会えて感謝です。フロアに戻ります」  女性社員は食事を終えたお盆を持って、背筋を伸ばして、事務所を出て行った。 お盆は昔から、いい出会いがあるものです。心が静かになるからでしょう。 暑いお盆ですが、どうぞ、美味しいものを召し上がりながら、懐かしき思い出を語り合うひと時をお過ごしにいらっしゃいませんか。