「店長、どうしたんです?」と出勤して来た入社1年目の女子社員が、お店の事務所を片付けている店長に声を掛ける。 更衣室でキッチン・ユニフォームに着替えながら「私も手伝います」と新入社員。 「君の今の仕事は仕込み。先輩のパートさんが待っているぞ。君が来るのを」店長は片付けの手を休めずに社員に、やさしく言う。 「わかりました。でも、手伝いたいなあ」心残りのように言う。 「今度な。手伝いじゃなく、事務所整理整頓の時間を自分で作れるようになったら、お願いするよ」店長はスチール棚を開け、不要と思われる古い書類をどんどん、ゴミ袋に入れている。 「では、店長、キッチン作業に入ります」と明るい声で新入社員。 「作業じゃなく、習得。仕込みはキッチンを制する大事な仕事だ。真剣に取り組まないと、包丁で指を切るぞ。気を付けてな」店長のまわりにはゴミ袋がもう三つにもなっている。 「はい。真剣におぼえます」なぜか、きちんとお辞儀がしたくなった新入社員。 「頼むぞ」店長は手を休めて、新入社員を見送る。 それから間もなく、チーフが出勤して来た。 「店長、そんなことは私がやりますよ」 「君の今の仕事は、フロアの段取り確認、人員の配置チェック、お客様のお迎え体制のチェック。さあ、着替えて、フロアに。急いで。パートさんが待っているよ」 「承知しました。段取りチェック終わって、時間があれば、手伝いに戻ります」とチーフ。鏡を見て、フロアに出るセルフ・チェックをおこない、 戦闘モードで事務所を出て行った。 ランチのピークが終わって、順に休憩に事務所に戻っていく。  店長は、ピークタイムからフロアに張り付いて、従業員さんを休憩に行かせる心配りをしている。  休憩からフロアに戻ってきたチーフが、 「店長、休憩、代わります。行ってください。それにしても、店長、事務所、すっかりきれいになりましたね。すごいです」チーフの顔が輝いている。 「1回、とことん、きれいにしてしまえば、誰もだらしなくしたり、汚しづらくなるからね」 店長が、事務所に戻ると、仕込みから鮨ラインで仕事をしていた新入社員が、自分で握ったお鮨を昼食にしている。 「どうだ? 握りも上達したか?」と店長が声を掛ける。 「はい。ベテランのパートさんが、コツを教えてくれるので。まだまだですが、少しずつ自信が付いてきました」箸を置いて、新入社員が答える。 「そりゃあ、良かった。君は教わり上手なのだろう」と店長はにっこり。 「店長、事務所、超きれいになりましたね」 「超か。ありがとう、ほめていただいて。事務所はね、みんなの休憩所でもあるんだ。体を休めるだけでなく、心も休める場所なんだ。だらしなくて 雰囲気の暗い事務所では、実は、体も休まらないんだよ。これは僕の経験だけどね。さあ、食べて、午後の仕込みが待っているぞ」 お客様の見えない、フロアの壁の向こうのドラマも毎日、あるのです。 お盆です。メニューにバライエティのある「和食レストランとんでん」だからこそ、三世代のお客様が多いのです。「いらっしゃませ」と笑顔で明るい声で、皆様をお待ちしています。