無限の繁栄を思わせたアメリカ経済が、まるでブラックホールにでも吸い込まれていくかのように急激な衰退の始まりを思わせるニュースが24時間、リアルタイムに流れてきています。  日本も時差の分だけずれるように、日本の繁栄の象徴でもある自動車産業、電機産業の大リストラが始まっています。  ところでこういう時だからこそ、どうしてこうなったのかなと振り返ってみたりするのですが、日本の戦後民主主義はいつの間にか個人主義に変質してしまって、隣は何をする人ぞという”隣人愛”不毛地帯にでもなったような気がします。  これほど時代が悪くなってきたからこそ、あらためて多少不自由なことがあっても”隣人を思う心”を発信し合ってはどうでしょうか、と戦後民主主義と共に育ってきた一人として反省を込めて、祈りを込めて発信してみたくなります。  元日の朝、きりりと髪をととのえ、シフトより1時間早めに出てきて、良いスタートを切ろうとお店にやってきた女性チーフのY子さん。  ユニフォームに着替え、鏡の前に立って、汚れがないか、目立つようなしわはないか、くるりと回って全身をチェック。最後に、好きなフランスの画家の名前「モジリアニ」と言って、特に最後の「ニ」に力を入れて発音し彼女独特の笑顔法を実行する。  モジリアニ夫人、ジャンヌの肖像画は24枚もあり、彼女がいかに愛されていたかを物語っているのですが、89年前の1月24日、モジリアニが36歳で病没後、21歳の彼女も2日後に彼のあとを追って、若くしてこの世を去りました。火のような恋をしたまま…。  モジリアニの一生はのちのちまで伝説となって語り継がれていますが、Y子さんはモジリアニの展覧会があれば、できるだけ見に行くようにしています。本物の絵はやはり、伝わってくるものが違うからです。  笑顔を浮かべたY子さんは、次にフロアーに出ようとシューズをチェック。シューズを手にとって、フレッシュな気持ちできれいに磨く。  そしてフロアーに出ようと、靴を履きおえたところで、店長が出勤してきました。彼女は、それこそまた心の中で「モジリアニ」と言って笑みを浮かべ「店長、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」と挨拶をした。  店長もそれに応えて「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」と二人、共にお辞儀を交わして、店長は「早かったんだね」と気づかいの言葉をかける。 「はい。元旦ですから。気持ちも新たにスタートしようと思いまして。店長のほうこそ、昨日は遅くまでおせち料理のお届け確認でお疲れでしょうに」と彼女もまた気づかいの言葉を返した。 「皆さん、早めに出勤してくださってありがたく思っています。新年スタートの朝礼を始めましょう。皆さんに声を掛けてください」  すでにキッチンとフロアーで仕事を始めていた朝出勤の社員、パートさんが店長の前に整列しました。 「新年明けましておめでとうございます」と店長。それに応え、「新年明けましておめでとうございます」とさわやかに挨拶を返す皆さん。 「昨日までのおせち料理販売は皆様のおかげで店舗目標も完売できましたし、ご注文のお客様にすべて無事にお届けすることができました。あらためてお礼を申し上げます。ありがとうございました」と店長はスパッと切れの良いお辞儀をする。 「さて今日から2009年、平成21年の始まりです。始めよければ終わりよし、ということわざもあります。今日、最初のお客様に感謝を込めてお迎えし、良い料理をつくり、良いサービスで心から満足していただくようにしましょう。そしてその気持ちをずっと持ちつづけて一人一人のお客様に喜んでいただきましょう。新年のおすすめメニューは、ずわいがにと、本まぐろメニューです。また三が日はお宮参りで晴れ着のお客様もご来店されます。料理提供時、下げ膳時、気配りをして、あわてず、確実なおもてなしをお願い致します」と、きちっと本日のポイントを話す。 「最後に、今日もチーフ、なんて言うんだっけ?」 「えっ?」Y子さんは一瞬ピンときていない。 「ほら、笑顔が浮かんでくる魔法の言葉」 「モジリアニ、ですか?」 「そう、それ。幸せなほほえみをお客様に楽しんでいただきましょう。以上、よろしくお願い致します。モジリアニ!」 皆さん、ニッとほほえんで、それぞれのポジションに向かいました。