アメリカ発の世界不況はこの日本にも大きな影を落としています。  多くの人々が生活防衛にまわり、スーパーに行っても買い過ぎない、必要なものだけを買う、同じ品質でも安く購入できるところを探したり(ガソリンスタンドなど)はしますが、品質の良くない安い物は買おうとしません。  筆者は何十年振りかで、マイワイフの案内で暑い夏の真っ盛りに六本木を訪ねてみました。噂に聞いていた六本木ヒルズは人波がいっぱいでいまだ観光のメッカには違いないけれど、私にすればもう輝きを失っていると感じました。  それよりも、東京駅の地下通路から続いている丸の内新ビル同様のカルチャーショックを受けたのは東京ミッドタウン。ここは日本ではない!という異空間に、たじろぐばかりでした。  8月なかばの土曜日。マイワイフがマイワイフ自身のバースデーのために予約した東京ミッドタウンのレストランのランチは5千円。午前11時半の予約だったので入ったときはすいていて、眺めもよく、そうだよな、こんな高いランチを利用する人は少ないだろう、と思っていたら、12時には満席。それも三世代家族で、食事のあいだぢゅう赤ちゃんが大きな声で泣いていました。だれもとがめません。ベビーはみんなの宝物ですから。 そんなふうに高級レストランを私ら夫婦もふくめて、イッパンジンが普通に利用していました。ふだん、車で走りながら、目だけはガソリンの安いスタンドを探している私なのに。  自宅や会社で電気やエアコンの使い方に神経質すぎる程神経を使っていても、だから、逆に、合理的に、精神のバランスをはかるように、行き届いたサービス、おいしいものを食べさせてくれるところに出掛けていくのでしょう。 「どんなに不況風が吹こうと、私には自信があるんです。お客様は必ず私ども和食レストランとんでんにご来店されます。この仕事は大変だからこそやり甲斐があり、辛いからこそおもしろいんです」  勤務歴、10年以上の男性店長は笑みをたやさず言う。  不況でありながらも採用難はつづいており、時間帯によっては従業員の少ないなかで店舗運営をおこなわざるをえないこともあります。 「人員が少なくても行き届いたサービスはできます。声かけ、アイコンタクトが深まっていけば、心の連携も強くなるからです。心でお客様を迎えるという軸がぶれないかぎり、この仕事はお客様の心に届きます」  そして、彼は大事なのは”ウエルカムな心”だとも言う。 「お客様をいかにおもてなしするかを常に考え、可能なかぎりのことを実践するウエルカムな心が大事なのです。この仕事を10年以上やってみてたどりついた結論です。  お子様には、お客様から要求されなくてもお子様用椅子、エプロン、取り皿、スプーン、フォーク、短いストローを。  毛がにをお召し上がりのお客様にはタイミングの良いお絞りの交換を。  突然の強い夕立用に、今年はゲリラ雷雨でしたが、そういう雨用にたとえ駐車場のお車まででも使える置き傘、もちろん、近所のお宅に帰宅いただくための置き傘の用意を。  思いつくかぎりのお客様へのウエルカムな心を準備しつづけていけば、お客様は暑い日も寒い日も雨の日も風の日も雪の日だっていらっしゃっていただけるのです。私は自分でそのことを実践してきたから、本当にそう言えるんです。  どんなに不況だってご夫婦、お子様連れのご家族、おじいちゃん、おばあちゃんがご一緒の三世代のお客様、もちろん、お一人様、ご友人同士のお客様、どのようなお客様もいつもウエルカムです」  そのウエルカムな彼に聞いてみた。「失敗はなかったのか」と。 「失敗ですか。かぞえきれません。どうやったら、今日ご来店のお客様にリピーターになっていただけるかと、思いついたことはなんでもやってみます。やって失敗しても、意味がなくても、何かを変えるために、自分を変えるためにもトライしつづけています。  トライしつづなければこの仕事のおもしろさなんてわからないですよ」  彼は笑う。どこまでも明るく。笑っている。