旬のさんま(秋刀魚)メニューが売れています。

 入社して4年目になる彼女。最近はフロアーにも出るようになったが、キッチンで調理する時間の方が長い。

 人気のさんまをおいしく提供しようと、この日は20尾のさんまの仕込みをおこなった。

 家では包丁を握ったことのない彼女であったが、とんでんに入社して今は見事に、さんまを大名おろし(3枚おろし)にできる。

 とんでんに入社しなければ身につかなかった調理技術、”わざ”である。さんまだけでなく、いわし(鰯)にしても原魚からさばくので、たいていの新人さんは、これをやるのですか、と一瞬身を引く。しかし、やって見せ、やらせていくうちに、顔色がどんどん明るく変わっていく。

 教えることができた彼女もうれしいが、新人さんの技術を習得した時の喜びの顔を見るのが彼女にはたまらなくうれしいのである。

 それは新人さんだけでなく、彼女の仕事に対しても無限のやる気を引き出してくれる。相手が持っていないものを教えることで共有できる喜びは仲間意識を強くしていく。

 いつまでも乙女チックな彼女にはまだ理想の王子様はあらわれないが、車社会の時代であっても、白いスポーツカーではなく、きっと白い馬に乗って迎えにきてくれる、という小さいころからの夢はまだ醒めない。

 近ごろ、フロアーに出るようになって、男性のお客様を見るたびに私を迎えにきてくれたのかしら、と思ってしまう。そして今なら王子様にもおいしいさんまをごちそうして上げられるのになあと思ってしまう。

 彼女には後輩の女子社員がいる。この若い彼女にも当然、さんまの調理方法を教えた。後輩の彼女は、ビールのおつまみメニューの中に「さんまの塩焼き」が入っていて、香ばしく、あぶらをじゅーじゅー言わせながら焼き上がるさんまもまた提供しがいのある価値あるものだと思っている。

 若い彼女はスーパーでは特売になったさんまを見ながら、とんでんのさんまはスーパーの特売価格の何倍もするお値段だが、形も良く、あぶらもあって、そして私達とんでんのお客様への愛と心がいっぱい詰まっているからずっとずっとおいしいのだ、それはもうプライスレス!で、胸をキュンとさせることがあるんです、と先輩の”師匠”に話すことがある。

 二人ともさんまに負けず、「今が旬の私達で~す」とも言いたそうにして、お客様を毎日お待ちしています。