8月11日の土曜日のことだった。札幌はお盆に入ると朝夕は気温が落ち始めるが、日中は関東と同じくらいの30度以上になる日もある。

 関東の店舗で勤務していたこともある30代なかばのパートさん。3年前にご主人が札幌に転勤になり、埼玉から引っ越して来て、札幌のお店に勤めることができて、彼女も転勤してきたかのような思いであった。

 お盆期間はお墓参りのご家族連れのお客様が午前11時を過ぎると、徐々に増えてきて、12時に満席になることが多い。

 お客様の入り具合を気にして駐車場を見ていたら、大宮ナンバーの車が入ってきた。「なつかしい」とパートさんは心の中でつぶやいた。

 小学校低学年の男の子と女の子が車から降りて、お店に走ってくる。お店に入るなり、「とんでんだ。札幌にもあるんだね」と姉弟のお二人は珍しそうに店内を眺め渡す。

「いらっしゃいませ」と笑顔でお子様たちを迎える。

 遅れてご夫婦でお店に入ってきて、「札幌なのに、ちっとも涼しくないのね。お店はエアコンが効いているから涼しいけどね」と奥様はご主人に言って、お子様たちを抱えるようにする。

「いらっしゃいませ」と改めてご一家をお迎えする。

「喫煙席と禁煙席がございますが、どちらになさいますか」とパートさん。

「禁煙、禁煙」と下の男のお子様。「おんなじだね」とお姉ちゃんに言うと、お姉ちゃんは、うん、うんと首をたてに振っている。

「畳席と椅子席のどちらになさいますか」とパートさん。 「いすせき、いすせき」と男のお子様。また、「おんなじだね」とお姉ちゃんに言うと、お姉ちゃんは同じく、うん、うんと首をたてに振ってにこにこしている。お父さんもお母さんも笑っている。「おんなじだね」とお母さん。ご一家で顔を見合わせて笑っている。

「ご案内致します。こちらへどうぞ」とパートさん。

 メニューをお渡しして、「本日のおすすめは、こちらのいろどりどんぶりとなっています」と申し上げると、ご主人が「今日は土曜だけどランチメニューやってます?」と聞く。

「ございます。こちらでございます」

「そう。ありがとう。関東にはない、北海道だけのメニューがあるんだよね」と聞く。

「あった。これこれ。いか刺身・天ぷら定食。お袋が好きだったんだ。2日前のフェリーに乗れて良かった」

「失礼ですが、埼玉からでいらっしゃいますか」とパートさん。

「そう。浦和。3年振りのお墓参り。子供たちは夏休みだしね。兄も東京だし、妹は名古屋に嫁いでいる。こっちにあるのは親父とお袋のお墓だけ」

「そうでいらっしゃいますか。私は大宮でしたが、主人の転勤で3年前に札幌にきました。どうぞ、ごゆっくりお過ごしくださいませ。ただ今、お茶とおしぼりを持って参ります」と言っているうちに、別のパートさんがお茶とおしぼりを持ってきた。

「皆様のご注文がお決まりになりましたら、またお伺い致します」と申し上げて下がった。

 ご一家のご注文内容はご主人はご希望どおり”いか刺身・天ぷら定食”「メロンがおいしそう」と奥様は”ひまわり”、「おしゃれ」とお姉ちゃんは”恵膳”、男のお子様は「やっぱ、サッカーでしょう」と”サッカーボール”でした。

 デザートの付いていないご主人と男のお子様お二人は、食後に北海道日高産の生乳を使った「ソフトクリーム!」とご注文された。

 お食事をお運びしたところ、すぐにご主人がお味噌汁のふたを開けて、「う~ん、これこれ。親父が好きだったんだ。とろろ昆布。今年の夏は北海道に来て良かった」と笑った。

「パパ、良かったね。ぼくはおじいちゃんとおばあちゃんに会えなかったのはさびしかったけど」と男のお子様。

 うん、うんとご主人。「さあ、食べよう。おじいちゃんもおばあちゃんも京香と友哉が来てくれて喜んでいると思うよ。さあ。午後からは函館へ向かっていくぞ」

 一瞬、我を忘れて立ちつくしていたパートさん。はっとわれに返り「ごゆっくりお食事をお楽しみください。何かございましたら、いつでもお呼びください」とお辞儀をしてお席を離れた。